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知ってほしい不育症

「不育症戦記(作/楠 桂)」(2010年3月19日発売)に寄稿した内容を現在の情報に改編しました。
不育症で悩んでいる人、不育症に関心のある人、また、流産を経験された人、これから妊娠されようとしている人に、読んでいただきたいと思います。

年間患者数は7万人以上
   『不育症』とは、「妊娠はできるのに赤ちゃんがお腹の中で育たず、流産・死産を繰り返してしまう症状」を言います。同じ妊娠・出産における症状でも、近年よく知られるようになった、「妊娠をすることが困難」な『不妊症』とは違い、まだ一般的に知られているとは言えません。
   しかし、2009年時点で、年間患者数は7万人以上と言われ、妊娠女性の2~5%が直面するとても身近な問題です。 私のクリニックにも、1週間に15~20人ほどの新しい患者さんがいらっしゃいます。
   以前は、『不育症』を専門に扱う機関が少なく、また、その専門の先生の情報が不明なこともあり、流産や死産をしても誰にも相談できず、原因がわからないまま諦めてしまう方も多くいました。しかし、最近はインターネットで情報を集めやすくなったこともあり、遠方からも治療にいらっしゃる方が増えています。そして、その多くの患者さんが無事出産されています。

不育症の発生率は、妊娠女性の2~5%
   健康な状態でも、一般に一度の妊娠で流産する確率は10~15%と言われています。この多くは赤ちゃんの染色体異常が原因の、いわば偶然の出来事です。しかし、多くの報告により、妊娠女性の2~5%に2回連続での流産(反復流産)が発生し、1~2%の妊娠女性に3回以上の連続流産(習慣流産)が発生している事がわかってきました。
   私たちが調査した「過去の連続した流産の回数とその後の無治療による流産率の関係」によると、2回連続流産後の流産率は40%にものぼり、高い流産発症のリスクがある事がわかっています。
   何度も流産が繰り返されるという状況は決して偶然ではなく、治療が必要な症状です。ですから、当クリニックでは、反復流産も『不育症』ととらえ、治療に取り組んでいます。
100%流産につながる危険因子はない
   『不育症』を呼び起こす原因と考えられる危険因子には、染色体異常、子宮形態異常、内分泌異常、凝固因子異常、抗リン脂質抗体異常、拒絶免疫異常、ストレスとありますが、100%流産につながる危険因子(原因)は、ほとんどありません。また、『不育症』の原因には、多くのものが混在しており、ひとつの原因で過去の連続した流産を説明できるケースは、ほとんどありません。危険因子が複数重なったり、はっきりと原因を見つけられないことも多く、またストレスなどの心理的要因も加わり、とても複雑化しているのが実態です。

染色体異常  夫婦いずれかの染色体異常が受精卵に引き継がれる。
   流産を引き起こす「染色体異常」には、偶然的に胎児の染色体に異常が起こるものと遺伝的なものがあります。遺伝的なものとは、両親のいずれかの染色体異常が、一定の割合で受精卵に引き継がれる場合を指します。この場合の流産率は約50%と言われています。
   不育症の検査で染色体異常が見つかると、多くの患者さんは、「染色体の異常は先天的なものだから、治療できないのでは」と考えてしまいがちです。
   しかし、これはあくまでも確率の問題で、染色体異常が判明しても、出産を諦める必要はまったくありません。流産率というのはあくまでも確率の問題で、実際に当クリニックでは、その他の精神的、身体的要因を治療する事で、1回の妊娠につき、50~60%の患者さんが無事出産されています。

子宮形態異常 着床や胎児の成長に影響する先天的な問題
   子宮形態異常には、双角子宮や中隔子宮などの子宮奇形や、子宮筋腫などが含まれます。子宮形態に異常があると赤ちゃんに栄養がうまく運ばれず、流産につながる危険があります。一般にこの異常が見つかった場合、形成手術を薦められる傾向がありますが、当クリニックでは、それ以外の心身の流産危険因子を調べ、まずその治療をしてきました。その結果、約70%の出産例を経験しています。

内分泌異常 体内のホルモン異常が流産に影響
   この異常の多くは、卵巣の「黄体機能不全」、「高プロラクチン血症」と「甲状腺機能低下症」です。近年の研究では「黄体機能不全」自体は、流産の危険因子ではないと報告されていますが、妊娠維持に有利な免疫状態に影響しますので、間接的な影響は多いに考えられます。「高プロラクチン血症」は、排卵や着床の障害になると言われています。また冷え性や凝り性などの症状が見られる「甲状腺機能低下症」は子宮内への血流が悪くなったり、また精神的に不安定になったりすることもあり、胎児への悪影響が認められています。

凝固因子異常 血液を固める働きの異常が流産・死産に影響
   血液中の血液を固めて血を止める役割を担う凝固因子に異常が生じると、血栓が作られやすくなります。この血栓が胎盤内につくられると赤ちゃんへの栄養の流れを遮り、流産や死産を招く可能性があります。
   妊娠中に出血があると、多くの不育症患者さんは、「また流産ではないか」と思ってしまいがちです。そして血を止めるために、一般の病院を受診した場合、止血薬を処方されるかもしれません。もちろん止血剤を服用すれば、出血は止まりますが、不育症患者さんの場合、出血を止めるだけでなく、体内の血栓も安定化させてしまう危険性もはらんでいます。ですから、服用の際には、十分に注意が必要です。

抗リン脂質抗体異常 自分の生体因子を異物と認識してしまう自己免疫異常
   「抗体」は外部からの侵入物に対し、反応する免疫機能の事です。「自己抗体」とは、自分自身のタンパク質にも間違って反応してしまう「抗体」の事を言います。「抗リン脂質抗体」は自己抗体のひとつで、この抗体が体内にあると、血栓ができやすく、流産につながることが認められています。
   女性は男性に比べ、自己抗体を作りやすいと考えられています。女性は精子や、半分の染色体(遺伝子)が父親から由来する胎児など、体内に自己の細胞からなるもの以外を受け入れる機会があります。その際、免疫機構に混乱が起こりやすくなり、間違って自己由来の細胞に対しても抗体を作ってしまう場合があるのです。

拒絶免疫異常 胎児の夫由来部分に過剰に反応してしまう
   お腹の中の赤ちゃんや受精卵の半分は、父親由来の組織です。つまり生物学的に言えば、赤ちゃんは母体にとって、異物と見なされてしまう危険性があります。しかし、妊娠にはそれを阻止し、赤ちゃんを体内で育てるためのメカニズムがあります。
   1953年から、世界中の多くの生殖免疫学者がこのメカニズムの解明に取り組んできました。まだわかっていない部分も多いのですが、拒絶免疫異常の患者さんは、この妊娠維持のメカニズムがうまく機能せず、赤ちゃんの夫由来部分をそのまま異物と認識してしまうことで流産にいたると考えられます。

ストレス 血管収縮や免疫機能にも影響
   『不育症』の患者さんの多くは、次の妊娠に対する期待とともに、大きな不安を抱えています。また「不妊症と違って、妊娠できるのだから大丈夫」「今度、また頑張ればいい」という周囲の励ましの言葉に傷ついたり、「流産をしたのは自分の生活習慣や行いのせい」と自分を責めてしまうことも少なくありません。
   また、自分のことを強く責めてしまうため、多くの患者さんが『不育症』について、誰にも相談できずに悩んでいます。    妊娠初期には、ストレスの症状として、お腹が時々チクチクし痛い、眠りが浅いなどがよく見られます。ストレスを感じ、緊張すると、アドレナリンが上昇し、毛細血管が収縮、血行が悪くなります。妊娠初期のこの状態は、胎児への栄養の運搬がうまくいかなくなり、流産につながってしまいます。
3~4人にひとりが『不育症』+『不妊症』
   10年ぐらい前から、『不育症』と『不妊症』の両方に悩まれている患者さんは多くなっています。当クリニックでも現在、3~4人にひとりくらいがそうです。それほど頻度は高いのです。
   今までは自然に妊娠できていたご夫婦が、流産を繰り返すという経験をされたことで、妊娠をしにくくなってしまったということは少なくありません。流産によって傷ついたことや、次の妊娠に対しての焦りなどがストレスになってしまったことが原因と考えられます。一刻も早く妊娠するために、子作りのタイミングを過度に気にしてしまうのです。
   もちろん妊娠には身体の周期を知る必要があります。しかし私はタイミングよりも大切なのはご夫婦の体調だと考えています。心の状態も含めたご夫婦の体調をおふたりで見つめなおすことが、ストレスを軽減してくれることにもつながると思います。

『不育症』と『不妊症』の境界領域「着床障害」
   また近年、『不妊症』で体外受精・胚移植を3回以上試みても妊娠にいたらないという方が、『不育症』の診察に来られるケースが増えています。その多くの患者さんが抱えているのが『不妊症』と『不育症』の境界領域に位置する「着床障害」です。「着床障害」は、受精卵が子宮内に着床できず、妊娠が継続できないことを言います。体外受精・胚移植で本来妊娠するには十分な卵(良好胚)を子宮内に戻しているのに、何回も卵が育たないという状況は、もう『不妊症』ではなく、『不育症』の治療領域と言えるのです。
不育症治療は予防治療
   『不育症』の検査と治療を考える上で、はじめにぶつかるのが、『不育症』が一般的な病ではないということです。通常、病気に対する診断と治療は、症状を見極めることから始まります。しかし、『不育症』での検査と治療は、妊娠していない時点で、多くの種類のスクリーニング検査をして、次の妊娠での流産の原因となる危険因子を予測し、その危険因子が次の妊娠の際に流産につながらないよう予防するのを目的とします。つまり、『不育症』の治療は、『不妊症』の治療とは次元の違う「予防医療」の領域になります。

予防医療は過剰治療
   『不育症』における予防医療は、いわば「保険をかける」という考え方で、検査により、少しでも危険因子としての可能性があるものを見つけ治療を行います。よって治療は原則として、検査の結果がグレーゾーンであっても行う過剰治療になります。またそのためには検査で危険因子をより多くみつける必要があります。検査の一部は健康保険でできますが、予防治療であるという側面上、保険がきかない項目が多いのです。
「不育症治療」でまず知っていただきたいことは、1回の妊娠につき、100%の成功率は期待できないということです。一般に『不育症』の患者さんでなくても、一度の妊娠で流産する確率は10~15%あると言われています。その約60%は胎児の偶然的な染色体異常が原因で避けることはできません。
   『不育症』の危険因子にはさまざまなものがあり、また、多くの不育症患者は、複数の危険因子を持っています。またストレスによる危険因子も重なってくるので、治療はどうしても複雑になりがちです。
   現在、理想的な「不育症治療」を行った場合、1回の妊娠での出産成功率は平均で約80%です。

  抗リン脂質抗体、凝固因子異常の治療
低用量アスピリン療法
   「抗リン脂質抗体」が体内にあると、胎盤内に血栓ができ、血流が滞ってしまいます。「低用量アスピリン治療」は、過剰な血小板機能を抑制することによって、血栓を防ぐ治療です。小児用バファリンやバイアスピリンなどの薬剤を、妊娠前の高温期から妊娠16~35週くらいまで服用します。

へパリン療法
   過剰な凝固系の作用を抑制することにより血栓を防ぐ作用がある「ヘパリン」を用いる治療で、「低用量アスピリン治療」と併用する事で、高い治療効果が得られます。方法は、妊娠反応が出た直後からの、12時間ごとのヘパリンの皮下注射。クリニックで事前に練習し、太ももや腹部に自己注射を行っています。外来通院で治療可能です。

拒絶免疫異常の治療
ピシバニール免疫治療
   胎児の夫由来部分を異物と妊娠してしまい、免疫機能で排除しようとしてしまう事が流産の原因と考えられる拒絶免疫異常の新しい治療法。
   ピシバニールを接種することで、受精卵の夫由来部分への免疫反応を正常に調節する事を目的としています。
当クリニックでは、まず初診の際に、診察と心理的ストレスの程度を検査し、その結果に基づき支持的精神療法を行います。必要ならば抗不安薬なども処方します。もちろん薬の有益性と危険性を十分説明した後、納得していただいた方のみへの処方です。
   ストレスは数値化をするのが難しく、効果がわかりにくいため、他院ではなかなかできないと思います。十分な知識と経験、実績が必要な領域なのです。ストレスが妊娠の維持に悪影響を及ぼしているのは、1950年代からの多くの研究で証明されています。ただ、実際の臨床現場における診察・検査と治療法においては、身体的な検査と治療法とは違うので、なかなか難しいのです。

「不育症治療」は、ぜひご夫婦で
   当クリニックでは、旦那さんにも『不育症』のことを知ってもらうため、ご夫婦での診察をお勧めしています。そこで気づいたことは、旦那さんも『不育症』の悩みを誰にも言えずに悩んでいる方が多いということです。女性にとって、流産や死産の経験はとてもつらいものです。しかし、同じように旦那さんも赤ちゃんを亡くした悲しみを誰にも言えずに抱えているようです。
   よく私は患者さんに「旦那さんに優しくしてあげて」と言います。ご自分がつらい時にこそ、旦那さんにも目を向ければ、旦那さんの優しさやつらさもよく伝わってくると思うのです。私は「不育症治療」で大切なことは、ご夫婦が一緒にご自分たちの状況を受け入れ、ふたりにとって納得のいく治療をすることだと考えています。力をあわせて治療に取り組んだ先に、ひと組でも多く、赤ちゃんを迎えられるご夫婦が増えてくれることを願っています。
Q 『不育症』かなと思ったら?
   昨年、流産を経験しました。『不育症』を知って、一度きちんと検査をしたいと考えていますが、『不育症』の検査は、どの病院でも受けられるのでしょうか?

     自然妊娠でも流産する確率は10~15%と言われています。その約60%は赤ちゃんの染色体異常が原因の、いわば偶然の出来事です。しかし、何度も繰り返される場合には、一度検査を受けることをおすすめします。『不育症』の検査は、保険適応範囲内の血液検査であれば、どの病院でも受けられます。ただし、『不育症』はいくつかの要因が重なり、検査での数値が基準値であっても、安心できない難しい側面もあります。また、多くの項目が自費の検査になります。現在はインターネットにより医療機関の情報を集めることができますので、ひとりで悩まず、まずは相談することからはじめてみてください。

Q 不育症治療は、実際にどのくらいの期間と費用がかかるものなの?
   過去に2度の流産を経験しています。『不育症』の治療を考えていますが、近くに大きな病院がなく、迷っています。実際に『不育症』の治療にはどのくらいのコストがかかるのでしょうか?
   『不育症』の治療を考える際に、近くに専門の医療機関がないというのは、よく耳にします。当クリニックも愛知県外からの患者さんが半数以上です。アメリカ、オーストラリア、東南アジア、中国からも来院されています。
当院での不育症の検査は、すべて初診時に行えます。約40日後の2回目の再診時に検査結果を説明して、その日から治療開始できます。しかし、検査費用は保険外のものも含めると7万円前後、治療に関しても保険がきかないものが多く、自費治療が必要な場合、妊娠時に約10~15万円かかってしまいます。妊娠成立後1~2週間毎に4~5回ぐらいの通院加療の予定です。海外からの患者さんは、妊娠成立後、約4~5週間、日本に滞在していただきます。費用面でも負担が大きいので、不育症治療は常に費用対効果対リスクを推し量り、患者さんやご家族と相談しながら進めていく事が大切だと考えています。

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