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きちんと知りたい不育症【2020年版】

赤ちゃんを授かったにもかかわらず、流産や死産で失ってしまうのは悲しくつらいもの。それを繰り返す「不育症」について、ストレスも含めた、その原因や検査、治療法を、1980年頃から現在までの約40年間の知見をもとにまとめてみました。流産、化学流産を繰り返し、先が見えない今、まずは読んでみてください。


1.不育症とは…

 『不育症』とは、「妊娠はできるのに赤ちゃんがお腹の中で育たず、流産・死産を繰り返してしまう症状」を言います。妊娠女性の2〜5%が直面するとても身近な問題です。

 流産する確率は妊娠時の年齢に比例して約10~30%もあり、その50~70%は胎児側のほぼ偶然的な染色体異常(運命)によるものです。しかし、流産を繰り返した場合、偶然的な流産が繰り返す確率は減っていきますので、反対に、子宮内環境に問題がある流産の確率が増えていきます。

 表1は私(青木院長)たちの調査も含めた「過去の連続した流産の回数とその後の無治療(精神的医療サポートもなし)による流産率の関係」を示したものです。この表からわかるように、2回連続流産した場合、その後の流産率は36~44%であり、連続する流産の回数が増えるに従って、その後の流産率は高くなっていきます。この表により、2回以上の連続流産を経験した女性においては、その後の妊娠に高い流産発症リスクが存在していると考えられるのです。

表1 過去の連続した流産回数とその後の流産率の関係
過去の連続した
流産の回数
その後の流産率(%)
マルパス
(1938年)
青木ら*
(1980~1981年)
アルバーマン**
(1988年)
0 18 14 12
1 22 32 13
2 38 44 36
3 73 45 -
4 - 62 -
5 - 73 -
*免疫療法がおこなわれる以前の1980年と1981年に、名古屋市立大学病院の産婦人科を
受診したすべての婦人(対象は5,779名)について調査した
**3回妊娠した経験をもつ英国の女性医師(対象は742名)について調査した

2.不育症を呼び起こす要因とは…

 今後も流産を引き起こすような不育症の要因(原因)には次のようなものがあります。ただ、ほとんどの要因は必ず流産を引き起こすというわけではありません。また、実際には不安、ストレスという心の状態も含めて、これらがいくつも重なっていることがよくあるのです。さらに、年齢や流産回数の上昇によって、多くの要因は増えていきます。表2は、主な検査項目に基づいた不育症の要因(原因)と、その出現率と、無治療の場合の流産危険率(予測値)を示したものです。

表2 不育症の原因
不育症の原因

潜在性高プロラクチン血症
赤ちゃんへの思いが強いと母乳を出すホルモンが妊娠前から増えています

 生理前に胸が張りやすい方に多いのが潜在性高プロラクチン血症です。脳下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンは、別名、愛情ホルモン、ストレスホルモンとも言われており、日内変動により夜中に高くなります。乳腺を刺激する働き以外に、卵巣機能を抑制したり、免疫細胞を刺激したりする働きを持っています。ホルモン値が高いと不育症や不妊症の原因になるのです。二人目の不育症の原因でもあります。また、ストレスによっても高くなってしまいますので、要注意です。


潜在性甲状腺機能低下症
新陳代謝の中心ホルモンで年齢やストレスにより低下し、子宮が冷えます

 冷え性の方に多いのが潜在性甲状腺機能低下症です。病気という範囲ではなくても、ごくわずかな甲状腺機能の低下が妊娠初期の流産の原因になってしまうということが、2012年の米国内分泌学会ガイドラインに報告されています。また、妊娠初期には甲状腺ホルモンの需要が約1.4倍に増大しますので、妊娠初期になって初めて潜在性甲状腺機能低下症になってしまう方も少なくありません。
潜在性高プロラクチン血症と潜在性甲状腺機能低下症はよく併発します。また、それぞれはストレスとも深く関係しています。


凝固因子異常
血液が固まって胎盤に血栓ができやすくなります

 2000年代になって、血栓性素因としての凝固因子異常が報告され注目されてきました。特にプロテインS活性低値は死産とも深く関係しているようです。第12因子低値は不育症の原因ではないという報告もあります。プロテインCは意味がないようです。


抗リン脂質抗体
自己免疫の異常で胎盤に血栓ができやすくなります

 自己免疫異常の一つで、「抗リン脂質抗体症候群」と流産や死産との関係が、1980年代より知られてきました。抗リン脂質抗体にはさまざまな種類があり、1990年代には、IgGとIgMタイプそれぞれ6種類、計12種類もの抗リン脂質抗体が測定されていました。現在では、やみくもに検査する必要はなく、その中でも重要な抗リン脂質抗体を測定しています。
凝固因子異常や抗リン脂質抗体があると、胎盤に血栓ができやすく流産・死産を引き起こすと考えられています。


同種免疫異常
胎児の夫由来部分に異常に反応してしまいます

 1981年に画期的な研究報告がイギリスと米国からほぼ同時に発表されました。
夫のリンパ球接種と他人の白血球輸血が不育症の治療になるという内容です。いわゆる免疫治療です。世界中が驚きました。それ以前までは、流産の原因は卵のみにあると考えられており、流産を防ぐという概念がなかったからです。
考えてみれば、受精卵は半分自分ではありません。半分異物です。しかし拒絶されません。何かカラクリがあるはずです。そのカラクリが卵を育て守る同種免疫なのです。この異常な状態が同種免疫異常なのです。
 現在までに分かっているカラクリとは、胎児側胎盤細胞と母親側子宮内細胞の活発な交流により、胎盤細胞が攻撃されることなく、程よく増殖するものです。このカラクリのどこかに障害があると、流産してしまいます。


不安因子異常(心理的ストレス)
ストレスは血管収縮により血行を悪くし、子宮・卵巣や免疫機能に悪影響を及ぼします

 不育症の基本的な要因は心理的ストレスです。不育症の存在が世界で最初に発表されたのは1954年。そのタイトルが「ストレスと不育症」です。その論文内容は、不育症の約20%の方が精神的に病んでおり、精神治療と一般的なホルモン治療の併用で約90%の方が赤ちゃんを授かることができたというものです。
 流産を繰り返し経験されたならば、心が折れてしまうのは当然です。ただ、自分の性格特性と周囲の環境によっては、そのまま重いものを背負ってしまいます。そのことが、その後の流産の複合的要因になってしまうのです。なぜならば、不安因子の増大により、妊娠時に強い緊張が発生し、子宮内の細動脈が収縮して血流を悪くなったり、また、ホルモン分泌や同種免疫にも悪い影響を及ぼしたりするからです。


子宮形態異常
着床や胎児の成長に影響することがあります

 子宮筋腫や子宮の形の異常は超音波検査等でよくわかりますので、以前から主な原因のひとつと思われていましたが、今までの多くの臨床データの検討より、本当に流産の原因になる異常の頻度は、ごくわずかであることがわかってきました。


夫婦の染色体異常
夫婦の染色体異常が一定の確率で引き継がれます

 夫婦いずれかに染色体異常(約3%)があれば、受精卵にも一定の確率で染色体異常が起こり、流産の原因になります。流産率は、夫婦いずれかの染色体異常で1回の妊娠につき約50%です。この異常により2回とも連続して流産する確率は約25%です。染色体異常は治療できません。しかし、それ以外の原因を予防すれば出産できます。


3.検査と治療法は…

 不育症の検査の特徴は、流産を予防するための検査ですから、原則的には自費検査になります。不育症と関係する病気に対しては、疑い病名により保険で検査できますが、それは不育症の検査の一部です。流産を予防するための治療も原則的には自費治療になります。表3は、体外受精による妊娠ではなく、自然妊娠による不育症の方の、過去の流産回数別の当院の11年間の治療成績です。対照は、1980年と1981年に、名古屋市立大学産婦人科を受診された、すべての患者様の過去の流産回数別の出産率です。1981年までは、世界的に不育症を専門的に診たり治療したりすることがなかったので、この対照データは非常に貴重なのです。また、この調査値は統計的手法(非線形回帰)によってもその妥当性が裏付けられています。

表3


ホルモン治療
 プロラクチンについては下垂体前葉負荷試験(TRH負荷試験)により、潜在性高プロラクチン血症の有無を判断して、原則的に、妊娠初期まで正常に維持するための薬物治療をします。
また、甲状腺ホルモンについては、ほとんどの方が病気の範囲ではなく正常範囲です。しかし、正常でも低めの方は、血液の流れが悪く、流産の原因になってしまいます。ですから検査結果の判断が非常に難しいのです。年齢や季節によっても変化します。検査結果の判断方法、その管理方法と治療方法には、専門的知識と多くの臨床経験が非常に大切です。


低用量アスピリン治療
 凝固異常と抗リン脂質抗体陽性により、胎盤内に血栓ができると、血流が滞って胎児への栄養がスムーズに流れなくなってしまいます。その血栓を防ぐための治療が低用量アスピリン治療です。
ただし、異常がないのに安易に低用量アスピリンを飲むと、性器出血しやすくなり、子宮内に血種ができやすく、かえって流産を引き起こしてしまいます。低用量(子供用)アスピリンは血小板凝集能をブロックし、血液をサラサラにしますが、大目に飲むと細動脈を細くしてしまい、血流が細くなり、治療効果がなくなります。ですから、検査に基づいた適量を飲むことが大切です。

 
ヘパリン治療
 血栓を防ぐ作用があるヘパリンを用いる治療です。低用量アスピリンと併用することで、高い治療効果が得られています。妊娠反応陽性後に、12時間ごとにヘパリンの皮下注射を行います。重度の抗リン脂質抗体症候群の場合には出産直前まで投与することもありますが、現在、当院では妊娠10~12週くらいまでの投与がほとんどです。太ももや腹部に自分で注射を打つ自己注射を行っています。クリニックで練習をしてから行うので難しくはありませんが、慣れないうちはアザができたりすることもあります。


ピシバニール免疫治療
 同種免疫異常と判断されたときに、夫リンパ球免疫治療を改良した方法として日本独自で開発された治療方法です。不育症の治療は心理的ストレスとの密接な関係のなかで、1981年から夫リンパ球免疫治療により、世界的に広がりました。日本でも1000例以上実施され、1989~1991年厚生省研究班と2008~2010年厚労省研究班においても高い成功率が報告されています。しかし、治療方法等の違いによるものなのか、2000年頃に有効性を疑問視する研究報告があり、さらに夫の血液による感染症(特にエイズ感染)の心配が拡大して、現在は慎重に対応されています。
一方、ピシバニール治療に使うピシバニールとは、ストレプトコックス・ピオゲネスSu株という細菌をペニシリンと熱処理後に凍結乾燥した病原性のない菌体製剤ですので、感染の危険性はありません。細胞に対して毒性を持たないため、副作用の心配がほとんどありません。また、免疫原性が一定ですから免疫刺激(調節)するための治療に適しています。
この治療は同種免疫異常の方に有効です。ですから、そのための検査が重要になります。検査には胎児側細胞を攻撃する炎症性サイトカインやナチュラルキラー細胞活性と、胎児側細胞の増殖と分化を助けるコロニー刺激因子(M-CSF)、計3種類以上の検査が必要と考えられます。
 当院のピシバニール治療は、治療対象かどうかの検査方法、治療方法、さらに管理方法において、当院オリジナルのものであります。


ステロイド治療
 同種免疫検査にて、強力な免疫抑制が必要と判断されたとき、子宮内のステロイド洗浄治療や、ステロイド内服治療を行います。
近年、ステロイドより強力な免疫抑制効果があるタクロリムスという薬が開発され、Th1/Th2細胞比が高い患者さんに一部の施設で投与されています。原点は、Th1/Th2細胞比が高い不育症への夫リンパ球免疫療法の有効性を報告した2000年の論文です。タクロリムスはステロイド以上に副作用が強く、安易に使うべきではないと考えます。2018年7月より薬の添付文書(公文書)では、(警告)として、「重篤な副作用もあるので緊急時に十分に措置できる医療施設及び本剤についての十分な知識と経験を有する医師が使用すること」と書かれています。
免疫抑制が必要と判断されたならば、基本はステロイド治療です。ただし、ステロイド薬としてのプレドニン(5mg)を1日1錠服用している程度では、ほとんど免疫抑制効果がありませんので、投与量と投与方法が極めて重要です。ステロイド治療には、ステロイドの専門知識と治療経験が必要です。


支持的精神療法
 検査として、性格からくる不安の状態を分析します。想定外の出来事に対する恐怖心(パニック傾向)、周囲への不信感、抑うつ傾向などを分析します。その結果に基づいて、妊娠前から妊娠初期までの大切な時期、不安や辛さを和らげ安心できるよう、専門の助産師と私がサポートさせていただきます。
 不眠や不安が強い方には、ご本人のためではなく、これから授かる赤ちゃんへの栄養血管を細くしないために、妊娠前に最低限の精神薬を頓服で、飲んでいただくことを提案しています。精神的にも頑張っている方は、自分の心の状態に気が付いていない場合が多いのです。


4.最後にひと言

 1954年に発表された世界で最初の不育症の研究は、流産を重ねて精神的にダメージを受けた女性のケアを目的にしたものでした。ストレスのことは数値化がむずかしく成果がわかりにくいため、現在は遺伝や免疫の観点からの研究が主流です。しかし、実際に何度も流産、死産を繰り返して精神的に苦しんでいるご夫婦がたくさんいるのですから、心理的なサポートの重要性がもっと注目されるべきと思います。
 不育症の場合、理想的と思われる治療をしても成功率は1回の妊娠につき、年齢により約60~90%です。残りの10~40%は運命(胎児の偶然的な染色体異常)による流産なのです。それも受け入れるような覚悟も大事です。物の見方を変えると気持ちが楽になり、次に向かう勇気が湧いてきます。

最終更新日: 2020年08月27日 13:53

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