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きちんと知りたい着床障害【2020年版】

現在、日本では体外受精・胚移植によって、約16人に1人が生まれています。
 一方、3回以上も良好胚を移植して、すべて妊娠反応陰性か化学流産される方も増えています。すべての不成功が受精卵だけの問題では説明がつきません。不育症を専門とする立場から考えれば、受精卵を育てる子宮内環境にも問題があると考えられます。先が見えない今、まずは読んでみてください。



1.着床障害とは…

 『着床障害』という日本語表記は、まだ正式に認知されていません。諸外国では、「Recurrent Implantation Failure; RIF」と言われており、日本語に直訳すれば、「反復着床不全」となります。『不育症』も以前は「反復流産」と言われていました。
 着床障害の定義は、海外も含めて研究者により違いますが、一般的には、3回以上、良好胚を移植しても臨床的妊娠まで育たない場合を着床障害と定義しています。ただし、年齢による変動を考慮する必要があります。

2.日本の体外受精の現状は…

 まず、日本の体外受精の現状を理解してください。現在、日本では体外受精を行っている病院・クリニックが約590施設あります。日本産婦人科学会が行っているARTデータ登録によると、年間20~30万人が体外受精治療を受けているようです。詳細なデータは、インターネットでも公表されています。「登録・調査小委員会/アートオンライン登録」を検索していただき、その中の「データブック」をクリックして、その中の「2017年PDF版」をクリックすると、詳細なデータが閲覧できます。図1表1が、最新の2017年データの一部です。
 そのデータによると、妊娠率は、対胚移植について26歳~35歳では40~46%ですが、40歳では約27%まで下がっています。また、対治療周期について26歳~35歳では25~27%ですが、40歳では約15%まで下がっています。対胚移植に比べて対治療周期の妊娠率が下がっているのは、卵子が採卵できない周期があることや、受精しない周期があるからです。出産率は流産によってさらに低下して、26歳~35歳では19~22%、40歳では約9%です。
 流産率は、26歳~35歳では15~20%であり、40歳では約34%と加齢とともに増加しています。自然妊娠の場合の流産率は、26歳~35歳ぐらいでは約10~15%ですから、体外受精による妊娠は自然妊娠より、流産率が高くなっています。

図1 日本の体外受精における妊娠率・生産率・流産率 (2017年)

表1 日本の体外受精における妊娠率・生産率・流産率 (2017年)

日本産科婦人科学会ARTデータブックより
https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/

3.着床障害を呼び起こす要因とは…

 体外受精の技術は、確実に受精させることができますので、受精障害はありません。体外受精・胚移植しても出産できない要因は、「受精卵に問題があるのか、あるいは子宮内環境に問題があるのか」の2つに分けられます。

受精卵(胚)の異常
 受精卵に問題があるかどうかは、顕微鏡検査で受精卵の形態をチェックする方法が一般的です。それ以外に2020年1月より、日本でも着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)という受精卵の中身(染色体という遺伝情報)を見る検査が、臨床研究として開始されました。この検査は魅力的ですが、一つの受精卵の検査費用が約8万円かかります。また、35歳以上の場合に有効性があるようですが、結果の異常率がほぼ50%以上あるため、多くの胚盤胞(5日目胚)が必要です。高齢の場合、採卵から胚盤胞まで育てるまでの時間と技術とリスクが問題となってきます。
 受精卵の異常は現在の医療技術では治療できません。

子宮内環境の異常
 第一段階は、胚盤胞(受精卵)を移植したとき、子宮内膜にうまく接着できるかどうかです。移植時期のずれや、受精卵からのhCGホルモン等の分泌不足や、子宮内膜の接着関連因子の不足が起こると、移植しても接着できません。この辺は特に複雑で、ブラックボックスです。
 第二段階は、受精卵が子宮内膜の表面(上皮細胞層)を通過して侵入してゆき、受精卵由来の胎盤になる細胞(根のような細胞)が子宮内膜の細胞集団のなかで増殖していきます。移植後5日目頃には、子宮内膜の血管を巻き込んで、子宮胎盤循環系を確立していきます。つまり、母体と受精卵の間で血液の交流が始まるのです。(移植後5日目の母体血中に微量なhCGが検出されます)
 第二段階からの異常が発生する要因として、接着してからの受精卵の発育に必要な胎盤になる細胞が、夫由来のため半分異物であることがポイントです。子宮内膜には免疫細胞が子宮内膜細胞の約30%も存在しているようですので、同種免疫異常があると、胎盤になる細胞が増えません。また、子宮内膜の血管異常(血管新生ができないとか、血管内が詰まってしまうとか)があると、胎盤になる細胞が栄養を取れません。血管新生には免疫細胞(マクロファージ等)も働いています。
 この第二段階からの異常の検査は、不育症の検査とほぼ同じですが、特に、詳細な同種免疫の検査が必要です。拒絶反応だけではなく、生着反応にも深く関与しているからです。また、同種免疫の細胞はアドレナリンに反応しますから、不安因子の異常からも影響を受けているのです。


4.着床障害の検査と治療法は…

 着床障害の多くの要因が不育症の要因と同じですから、検査と治療法の基本は、不育症と同じになります。着床障害と不育症の違いは、受精卵が子宮に接着してから発育が止まるまでの時期の違いです。ただ、時期の違いにより要因の重みの違いはあります。着床障害の場合、自己抗体、凝固の異常よりも、同種免疫の異常の割合が高いのです。また、不安因子の違いもあります。検査項目は当院の「不育症・着床障害の検査項目」をチェックしてみてください。

ピシバニール免疫治療
 同種免疫異常と判断されたときに、夫リンパ球免疫治療を改良した方法として、日本独自で開発された治療方法です。夫リンパ球免疫治療は、日本でも1000例以上実施され、1989~1991年厚生省研究班と2008~2010年厚労省研究班においても高い成功率と安全性が報告されています。しかし、治療方法等の違いもあり、2000年頃に有効性を疑問視する研究報告が米国より発表されました。また、1990年代頃より夫の血液(リンパ球も含む)によるエイズ感染症等の副作用が心配され、現在は慎重に対応されています。
一方、ピシバニール治療に使うピシバニールとは、ストレプトコックス・ピオゲネスSu株という細菌をペニシリンと熱処理後に凍結乾燥した病原性のない菌体製剤ですので、感染の危険性はありません。細胞に対して毒性を持たないため、副作用の心配がほとんどありません。また、免疫原性が一定ですから免疫刺激(調節)するための治療に適しています。
この治療は同種免疫異常の方に有効です。ですから、そのための検査が重要になります。検査には胎児側細胞を攻撃する炎症性サイトカインやナチュラルキラー細胞活性と、胎児側細胞の増殖と分化を助けるコロニー刺激因子(M-CSF)、計3種類以上の検査が必要と考えられます。
 当院のピシバニール治療は、治療対象かどうかの検査方法、治療方法、さらに管理方法において、当院オリジナルのものであります。また、非常に多くの治療実績があります。

ステロイド治療
 同種免疫検査にて、強力な免疫抑制が必要と判断されたとき、子宮内のステロイド洗浄治療や、ステロイド内服治療を行います。
近年、ステロイドより強力な免疫抑制効果があるタクロリムスという薬が開発され、Th1/Th2細胞比が高い患者さんに一部の施設で投与されています。原点は、Th1/Th2細胞比が高い不育症への夫リンパ球免疫療法の有効性を報告した2000年の論文です。タクロリムスはステロイド以上に副作用が強く、安易に使うべきではないと考えます。2018年7月より薬の添付文書(公文書)では、(警告)として、「重篤な副作用もあるので緊急時に十分に措置できる医療施設及び本剤についての十分な知識と経験を有する医師が使用すること」と書かれています。
免疫抑制が必要と判断されたならば、基本はステロイド治療です。ただし、ステロイド薬としてのプレドニン(5mg)を1日1錠服用している程度では、ほとんど免疫抑制効果がありませんので、投与量と投与方法が極めて重要です。ステロイド治療には、ステロイドの専門知識と治療経験が必要です。

支持的精神療法
 検査として、性格からくる不安の感情を分析します。想定外の出来事に対する恐怖心(パニック傾向)、周囲への不信感、抑うつ傾向などを分析します。その結果に基づいて、妊娠前から妊娠初期までの大切な時期、不安や辛さを和らげ安心できるよう、専門の助産師と私がサポートさせていただきます。
 不眠や不安が強い方には、ご本人のためではなく、これから授かる赤ちゃんへの栄養血管を細くしないために、妊娠前に最低限の精神薬を頓服で、飲んでいただくことも提案しています。精神的にも頑張っている方は、自分の心の状態に気が付いていない場合が多いのです。

低用量アスピリン治療
 凝固異常と抗リン脂質抗体陽性により、胎盤内に血栓ができると、血流が滞って胎児への栄養がスムーズに流れなくなってしまいます。その血栓を防ぐための治療が低用量アスピリン治療です。
 ただし、異常がないのに安易に低用量アスピリンを飲むと、性器出血しやすくなり、子宮内に血種ができやすく、かえって流産を引き起こしてしまいます。低用量(子供用)アスピリンは血小板凝集能をブロックし、血液をサラサラにしますが、大目に飲むと細動脈を細くしてしまい、血流が細くなり、治療効果がなくなります。ですから、検査に基づいた適量を飲むことが大切です。

ホルモン治療
 プロラクチンについては下垂体前葉負荷試験(TRH負荷試験)により、潜在性高プロラクチン血症の有無を判断して、原則的に、妊娠初期まで正常に維持するための薬物治療をします。
 また、甲状腺ホルモンについては、ほとんどの方が病気の範囲ではなく正常範囲です。しかし、正常でも低めの方は、血液の流れが悪く、流産の原因になってしまいます。ですから検査結果の判断が非常に難しいのです。年齢や季節によっても変化します。検査結果の判断方法、その管理方法と治療方法には、専門的知識と多くの臨床経験が非常に大切です。

いろいろな免疫治療
 体外受精・胚移植の場合は自然妊娠と違い、女性ホルモンを過剰なぐらい投与しますので、受精卵が子宮内膜で育つことができない要因としては、ホルモン異常以外の免疫の異常がまず疑われます。受精卵からは、HGCホルモンや、いろいろなメッセージ物質が放出され、子宮内膜の免疫細胞等がそれに反応して、新たな血管を形成したり、胎盤になる細胞を増やしたりしています。その異常を見つけて補足治療することが免疫治療です。当院のピシバニール免疫治療は、免疫的寛容を作り、生着反応を増やすための、適度な免疫刺激療法なのです。それ以外にも、HCGホルモンで培養活性化した自己リンパ球を胚移植前の子宮腔内に投与する「子宮内自己リンパ球移植免疫治療」は、着床障害の一つの治療法として注目されています。免疫抑制が必要と判断された場合には、タクロリムスではなく、まずステロイド増量治療が選択されるべきと考えます。他には、免疫刺激として、子宮内膜をひっかくスクラッチ治療や、免疫寛容をつくるための、大量免疫グロブリン治療、脂肪乳剤点滴治療などが行われています。

5.最後にひと言

 移植前の今度こそという思いと、その後の落胆と、そして毎回、卵のせいにされ、納得できますか? 確かに年齢とともに、卵の異常率(染色体異常)は増えますが、ほとんどが偶然の異常ですから、何回も何回も偶然は続きません。子宮にも異常があることは容易にわかるはずです。着床障害の検査は、詳細な同種免疫検査と不安因子検査等が必要であり、その治療も、いろいろな治療の組み合わせが、多くの場合に要求されます。
 2017年の日本の約45万周期の体外受精による出産率は、26歳~35歳で19~22%、40歳で約9%でした。当院は体外受精を行っておらず、子宮内環境の検査・治療に特化していますので、体外受精は他院で受けていただいていますが、子宮内環境の特殊な治療は当院が担当しています。その治療成績は、平均年齢38歳で妊娠初期の維持成功率が約24%、40歳以上で約12%です。
最終更新日: 2020年08月27日 13:51

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