受精卵には胎児になる細胞と、
胎盤になる細胞があります。
受精卵が子宮内膜にくっつくと、
胎盤になる細胞が子宮の中へ
どんどん侵入していきます。
胎盤になる細胞の表面には
特殊なもの(G抗原)があり、
攻撃的な免疫を抑えて、
必要な免疫を刺激しています。
この特殊な免疫反応が
うまく働かないと、
受精卵が子宮内で育ちません。
ブログNo.785の
免疫寛容の不良による流産・着床不成功(新知見)
も、参考にしてください。
妊娠すると免疫細胞である
白血球が増えます。
妊娠を維持するためには
免疫の働きを調節する必要があるので、
白血球が増えると考えられています。
免疫学的な妊娠の調節機構が
存在しているのです。
ブログNo.732「妊娠と免疫」
も参照してください。
ステロイドは1948年に開発され、
タクロリムスは1993年にステロイドより
強力な免疫抑制剤として開発されました。
薬の胎児への移行性(胎盤通過性)について、
プレドニゾロンというステロイドは
胎盤をほとんど通過しませんが、
タクロリムスはヒトで胎盤を通過することが
報告されています。
(Br. J. Clin. Pharmacol. 76(6): 988, 2013)
ステロイドについては、
必要量をコントロールしやすく、
健康な妊婦さんへの投与例は世界的に多数あり、
胎児への長期的な影響も問題ないようですが、
タクロリムスについては、
健康な妊婦さん(臓器移植を受けていない)への
投与例は現時点でわずかですので、
長期的な母児への影響が不安です。
妊婦さんへのステロイド治療について、
私は30年以上の治療経験があり、
副作用も含めて、
最良の治療効果を得る技量を持っている
と思っています。
免疫の働きは、異物を攻撃することです。
しかし、
胎児は半分異物ですが、
普通は攻撃されません。
その理由は、
ヒトの進化の過程で
胎児抗原(異物の標識)に対してだけは
局所的かつ特異的な
免疫の抑制機構が、
作られているからです。
現在判明しているその抑制機構とは、
胎盤の栄養芽細胞
(トロホブラスト)に特に多く発現する
特有なHLA―G抗原が(可溶性抗原もあり)
いろいろな免疫細胞の受容体に結合して、
NK細胞の細胞障害活性を阻害したり、
制御性T細胞を誘導したりして、
免疫寛容を誘導しているというものです。
しかし、いろいろな理由で
(たとえば、HLA-G抗原の発現が弱いとか、
免疫がHLA-G抗原に適切に反応できないとか)
免疫寛容が不十分なときには、
流産・着床不成功が連続する
可能性が高くなると考えられます。
免疫を全身的に抑制すれば治療
できるというものではありません。